「非正規格差とは?」
「同一労働同一賃金とは?」
「アルバイトでもボーナスや退職金がもらえる?」
今週、最高裁で3つの判決が出ました。正社員とそれ以外との待遇差が不合理であるかという裁判です。非正規の待遇は、セミリタイアを考える上で非常に重要です。
判決はどんなこと?何が変わる?

正社員と同じ仕事をしているのに、ボーナス・退職金・家族手当が払われないのは違法だ!
という3件の裁判で、最高裁で判断が分かれました。
大阪医科薬科大学とメトロコマースでは格差は合法、日本郵便では違法という判断でした。日本郵便では、待遇の見直しが進むかもしれません。
ここで議論になっている「同一労働同一賃金」の考え方は、セミリタイア生活とどのような影響があるのでしょうか。

セミリタイア後の働き方
完全なリタイアではなくセミリタイアで仕事をする場合、多くは正社員以外の雇用形態になります。これまでは、同じ仕事をしていても、正社員でないという理由で格差が生じていましたが、これが認められない流れが見えてきました。同一労働同一賃金の考え方です。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
もちろん3件で最高裁の判断がわかれたように、これからも最終的な判断は個別の事情によります。ただ、訴えられるリスクを避けるために、今後、自主的に制度を変えていく企業は増えていき、ゆっくりかもしれませんが、この流れは進んでいくものと思います。
この考え方が一般的になったとしても、その対応策は下記のように多様な方向が考えられます。そして、それぞれセミリタイアにまったく違う影響を与えます。
非正規の待遇が引き上げられる
まずは素直に考えて、非正規の待遇を正社員と同じレベルに引き上げるという考えです。
多くの企業がこの方向に舵を切れば、セミリタイア後のバイト生活でも、ボーナスや退職金がもらえるということになって、非常にハッピーです。

ただ、この通りにする企業はそれほど多くはないと思います。給与の原資は有限なので、単純に利益が減少する判断になるからです。
正社員の待遇を切り下げる。手当を基本給に組み入れる
逆の方向もありえます。つまり正社員の待遇を切り下げる方向です。こちらでも均衡は実現します。非正規を切り上げて、その分の正社員を切り下げるということをすると、待遇は近づいても心理的な分断が激化しそうです。
正社員をやめたい!というセミリタイアへの決心が強くなるかもしれませんが、正社員時代の資産形成が減速するという恐れも強いです。
あるいは、実質的には変わらなくても、たとえば正社員のボーナスを月給に組み入れて、形式的に均衡させるという手段もあります。金額の格差は変わりませんが、ある項目が「支給される」のか「支給されない」のか、というわかりやすい待遇差はなくなるので、取り入れる企業は増えそうです。
退職金がなくなる?
ボーナスと同じように、正社員の退職金が廃止に至った場合も影響が大きいです。セミリタイアにおいては、退職直後のスタート資金として退職金は極めて大きな要素です。そのままなくなれば計画は立て直しになるでしょうし、月給に組み入れられるにしても、在籍年数に応じた仕組みの退職金が、どの年齢にいくら配分されていくのかは、かなり予測が難しい問題です。
一方で、退職金がなくなるとリタイアの決断を後押しする要素ともなります。退職金は、給与の後払い的な性格があります。つまり、毎月もらえるはずの給与の一部が、会社に質に取られていると言ってもいいです。「返してほしければ、60まで働け」です。

このお金は、定年まで勤めてようやく満額の賃金が返ってくるという仕組みになっています。会社によりますが、途中で依願退職をすると、退職金が8割になるとか半分になるとかいう仕組みです。これがなくなるだけで、心理的にはリタイアの決断がしやすくなります。
仕事が区別されて非正規は軽易な仕事に限定?
もう一方の企業の対応策は、待遇はそのままにして、仕事を明確に区別するという方向です。同一労働同一賃金は、待遇差は絶対に許されないというルールではなく、異なる仕事であれば待遇差があってもかまいません。
なので、いままで非正規社員にまかせていた仕事が、正社員に巻き取られることが考えられます。非正規社員は、明らかに軽易で責任も配置換えもない仕事をする、という区別をします。

セミリタイア後に非正規で働く場合には、当然ながら正社員と同じ仕事をしたくはないので、低待遇に見合った軽易な仕事になるのは良い要素です。
一方で正社員の仕事は間違いなく増えることになります。正社員には、待遇が切り下げられる恐れと、仕事が増えるという両面の危機があります。早くセミリタイアしたくなりますね😅
非正規が激務化する?
同一労働同一賃金のルールのもとで、経営の視点から考えたときに最も劇的な方法は、ごく少人数の超高給の正社員と圧倒的多数の非正規雇用という構成にすることです。いままで正社員が担っていた仕事のほとんどを非正規社員に任せることで、非正規社員同士では待遇差がない、という論理です。
たとえば、飲食店チェーンにおいて、バイト店長と正社員店長で格差があると違法かもしれませんが、全ての店長を低待遇バイトにしてしまえば格差はない、という発想です。本社の正社員以外は全部バイトというすごい構成です。

極論すれば経営者はべつに格差を作りたいのではなく、給与を抑えたいだけなので、この方法もありえると思います。これが広まると、セミリタイア後のバイトは逆に激務化する可能性があります。というか、ここに至ると何がバイトで何が正社員なのか、セミリタイアとは何なのかよくわからなくなってきます。
今後も注意が必要です
まだ最初の判例が出たばかりで、これからどうなるのかは予断を許しません。
そのうち有名企業が格差是正策を打ち出してニュースになると思います。「在宅勤務を原則化してオフィス縮小をした」、とか「社内手続きからハンコをなくした」とかと同じように、我先にと時流に乗る企業が現れるでしょう。そのあと、どれくらいの企業がどの方向を選択するのか今後も注目です。

ありがとうございました。